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第110回検討会討議《第94回産業衛生学会の振り返りセッション》

概要

2021年6月11日(金)に第110回J-ECOH検討会を開催した。身体活動のパラドクスに関する論文と労働者の回復に関するレビュー論文の紹介を戸津崎貴文先生にご担当いただいたほか、坂本宣明先生の司会進行で、第94回日本産業衛生学会での学びについて総合討論するセッションを行った(司会進行:坂本宣明先生)。

論文紹介

論文1:心血管疾患と全死亡に関する身体活動のパラドックス: コペンハーゲンの一般住民104,046名を対象としたコホート研究
本研究は、身体活動量と心血管疾患イベント・全死亡の関連を検討したデンマーク・コペンハーゲンにおける大規模疫学研究の結果を紹介するものである。余暇活動の身体活動量が、心血管疾患イベントや全死亡のリスクと負の関連(運動するほどリスクが低い)を示したのに対し、仕事中の身体活動量は死亡リスクと正の関連を示した(仕事による運動量が多いほど死亡リスクが高い)。

★仕事中の身体活動量(非常に高い群 vs. 低い群)
 心血管イベントのハザード比:1.35(1.14-1.59)
 総死亡のハザード比:1.27(1.05-1.54)
★余暇活動の身体活動量(非常に高い群 vs. 低い群)
 心血管イベントのハザード比:0.85(0.73-0.98)
 総死亡のハザード比:0.60(0.52-0.69)
※余暇活動と仕事中の身体活動に相互作用はみとめられなかった。

著者らはこの状況を「身体活動のパラドクス」と呼び、運動の種類による健康影響の違いが存在することを指摘している。余暇活動の身体活動では十分な回復時間が取られ、また心肺機能を改善させる程度の強度の運動が行われるのに対し、労働による身体活動では静的で単調、不自然な姿勢、1日に数時間、不十分な回復時間しかない中で実施されるという違いが結果の違いを生み出すのではないかと指摘されている。


論文2:健康な労働者の回復を促進するための介入に関するスコーピングレビュー
健康な労働者の回復を促進するための介入方法として、ストレスマネジメント、音楽療法、自然療法などの方法が示された。34件の研究が抽出され、18本がRCT、8本が前後比較研究であった。 医療従事者や教育職、工場勤務者を対象とした研究が多かった。 また、個人の行動変容の回復への効果をみた研究が17本、組織や業務への介入が11本であった。 個人への介入を行った研究のうち53%が有益な効果(リラクゼーション 63%、回復練習 100%、身体活動の促進 0%)を示し、仕事への介入では55%で有益な効果(休憩の取り方 25%、参加型プログラム 75%、作業への介入 100%)であった。 
 関連情報として、「コーポレートアスリート」という概念が紹介され、労働者が不健康になってから対応するのではなく、労働者の健康を増進させるようなアプローチが産業保健においても重要ではないかと指摘された。

全体討議:産業衛生学会振り返りセッション

 まず初めにJ-ECOHスタディに関する発表演題6本(溝上、西浦、井上、桑原らによる)、J-ECOHスタディ以外のデータを使った検討会メンバーの演題発表9本の紹介を行った。
 次に、今後の参考になりうる発表演題について事前に実施したアンケートの結果に基づき、総合討論を行った。具体的には、「メンタルヘルス」「非感染性疾患」「労働生産性の評価・健康経営」「有害物質・渡航医学・DMAT」の4つのブロックに分けて、計19演題について討論を行った。

主な議論のトピックは以下の通り。
・PHQ-9を用いた抑うつ症状の残存判断と復職に関する研究
・復職後の就業継続率をアウトカムにすることの提案
・新型コロナへの心理ストレス軽減にコロナ対策の数が関連することを報告する研究
・テレワークが増えたことによるVDT作業と眼精疲労との関連に関する研究
・業種別のメタボ発症率との関連(公務ではメタボが低いという報告あり)
・健診データと歩数などのスマートフォンデータや健康経営指標と結びつけて研究すること
・有害物質管理をリスクアセスメントによって特殊健診項目を自律的に決めていくことの提案

今後、さらにこれらについて詳細な検討をすることで、J-ECOHスタディの推進・発展、同データを使用した個別研究の展開に活かしていくことが期待される。