ご挨拶
私たちの研究部では疫学手法によって、病気の予防や管理に関する研究を行っています。疫学では、社会における病気の分布や、その決定要因を統計的な方法で調べていきます。病気にかかるメカニズムはわからなくとも、リスク要因を同定し、適切に制御すれば、病気を予防することができます。
原因菌が発見されるのを待つことなくロンドン市内を歩いて集めたデータにもとづいてコレラの予防対策を進言したジョンスノーや、ビタミンB1が同定される前に麦飯によって海軍の脚気を減らした高木兼寛の業績は、病気の予防における疫学的アプローチの有効性を証明しています。
糖尿病やがん・循環器疾患などの慢性病の発症には、日々の暮らしや環境との関わりが深く関与しています。喫煙、過度の飲酒、肥満、運動不足、不適切な食生活は病気のリスクを高める要因として知られます。将来は病気にかかりやすい体質的素因が明らかになると予想されていますが、これまでの遺伝子研究によって慢性疾患における環境要因の重要性が改めて浮き彫りになっています。
私たちの研究部は、環境要因の中でも主に栄養や肥満に関する疫学研究に取り組んでいます。途上国においては、学校の子どもたちが主役のヘルスプロモーション研究を展開しています。このような研究活動を通じ、疾病予防の科学的エビデンスを提示するともに、社会におけるエビデンスの周知と活用を図ることで、健康な地域社会づくりに貢献したいと考えています。
疫学・予防研究部 部長
溝上 哲也