第102回検討会概要《職域における新型コロナウイルス感染症対策の課題と現状 vol.3》
前の記事 | 次の記事職域における新型コロナウイルス感染症対策の課題と現状 vol.3
職域多施設研究(J-ECOH)は、関東・東海に本社を置く企業(約10万名)が参加する大規模コホート研究です(研究代表者:土肥誠太郎先生、事務局:国立国際医療研究センター疫学・予防研究部)。 働く世代における生活習慣病や作業関連疾患を予防することや、職域健康診断の有効性や効率を高めることを主な目的としています。
毎月開催している検討会では、原著論文の輪読や研究動向の発表、情報交換などを行っています。2020年4月からは、新型コロナウイルス感染症に関する現状と課題の共有をめざした討議をオンラインミーティングとして行っています。
1.概要
坂本先生(ヘルスデザイン株式会社)のファシリテーションのもと、職域における新型コロナウイルス感染症対策に関する全体討議を行いました。今回は、以下のアンケートへの回答を踏まえた全体討議を行いました。- Q1. 前回検討会(2020年5月)から現在に至るまでの期間で、産業医として携わった新型コロナ対策についてお聞かせください。
- Q2. 今後1か月の間に、職域で取り組むことが特に重要になってくるだろう事項についてお考えをお聞かせください。
- Q3. 新型コロナウイルス感染症への対応として御社が取り組んでいることで、共有したい取り組みがあれば教えてください(ベストプラクティスの共有)。
- Q4. 現在、産業医として新型コロナウイルスに対応していく上で、困っていることがあればお聞かせください。
- Q5. 新型コロナウイルス感染症に関して検討会参加者に紹介したい情報(ウェブサイト、論文など)があれば教えてください。
2.これまでの取り組み
「Q1. 前回検討会(2020年5月)から現在に至るまでの期間で、産業医として携わった新型コロナ対策についてお聞かせください。」という問いに対してあった回答をもとに討議を行った。- 情報提供(社外)
-
- 営業再開する映画館における感染対策に関するアドバイスやガイドラインの監修
- 中小企業向け情報配信プロジェクトの運用(継続)
- 従業員向け/経営層向けウェビナーの開催
- 情報提供(社内・嘱託)/感染予防対策
-
- ビニールシート、アクリル板の設置
-
- アクリル板を設置する場合には、消毒するよう指示
- ビニールシートは火災の恐れ
-
- 設置しないように指導している。
- 消防法を念頭に、使用する場合は注意事項を要確認。
- マスクを外したいからアクリル板を設置したいという要望があり、対応に困っている。
- 次亜塩素酸水
-
- 新型コロナウイルスへの有効性については、現在検証中。有効であるか結論が出ていない。
-
- 製品評価技術基盤機構(NITE):https://www.nite.go.jp/information/osirasefaq20200430.html
- 推奨していない。
- 問い合わせはあるが、お勧めできない旨返事している。
- エタノール
-
- ようやく消毒用アルコールも普及してきた印象。
- アルコール濃度が低いのが多いというのも実情。
- 酒造メーカーでアルコールを製造し始めたところもある。
-
- https://newstsukuba.jp/23870/08/05/
- 企業によっては、更衣室や喫煙スペースの3密対策がまだ不十分。
- マスク配布
-
- 派遣・請負業者も含めた全入場者に、マスクを配布(今まで100枚以上/人)をしている。
- 出勤から退社まで1日中マスク着用義務。
- 工事現場等での屋外作業
-
- もともと熱中症が多い。加えて安全確認のために声出しが推奨されていたこともあって、マスクを外してしまう人が多い。
- 複数が屋外であっても近距離で作業する機械設備に関わる労働者もリスクが高い。
- マスクを外さないような指示は出しているものの、なかなか現場には受け入れられない。
-
- マスクによって伝声効果が落ちるというデータがあるので、マスクを使いたくない気持ちはよくわかる。
- 換気と手洗いの徹底は行っている。通気の有無は風速計でチェック。
- 2m距離が取れる職場はマスクを外して可にした。
- 「正解」がまだわからない。
- 職場巡視・巡視者
-
- できるだけ短時間でマスクをして巡視するというルールを作った。
- 息がかなり苦しくなった。
- 巡視者にも十分な熱中症対策を施す必要がある。
- 透明の飛沫防止マスク
-
- 通常のマスクだと、息が苦しい、熱中症になりやすい、声が通らない。
- また、聴覚障害の方が口話が分からないという問題もある。
- 飲食業で一部使用されている透明なマスク
-
- 現場作業者が見つけてきて、使用を許可した。
- 例:https://www.mov-on.co.jp/masclear
- サーキュレーター
-
- 使い方
-
- どの方向に向ければいいのかいまいちよくわからない。
- 空気がよどまないような向きにするのが望ましい。
-
- 部屋の外周に沿って風が流れるように、もしくは、ドアに向かって風を送るように
- 部屋の外や窓に向かってやればいいのでは
- できれば一方向がいいのでは
- 部屋の構造にもよる。
- 参考資料
-
- 厚生労働省:「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気方法https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf
- 日本産業衛生学会:換気シミュレーター
- http://jsoh-ohe.umin.jp/covid_simulator/covid_simulator.html
- 建築衛生分野の研究者からの報告:夏期における室内環境対策
- https://www.niph.go.jp/soshiki/09seikatsu/arch/COVID19_summer.pdf
- 体調確認
-
- 派遣・請負業者も含めた全入場者は、自宅で出勤前の体調確認・検温し、少しでも体調不良や、平熱より1℃以上高い場合は、自宅待機。
- 入門口で、AI検温装置を設置(全10台)し、37℃以上は、入門を止め、待機場で再測定。37℃以上なら自宅待機。
- 健診の在り方
-
- 今後は指定以外の機関での受診も認めて、結果の任意提出が多くなるということもあるかもしれない。
- 37度を超えたら当日の健康診断を自粛してもらっている。
-
- ただし当日受診できなかった人が後日遠い場所まで健診を受診しにいかないといけないので困る。当日の診察医に診察させ、体温だけでの判断をしないような対応にしている。
- 会議・食堂などの人が集まる場でのコロナ対策
-
- 食堂
-
- 人数分割、椅子などの間隔を空ける、私語厳禁などして食堂を運用
- パーテーションで区切り、会話禁止。
- 外したマスクの取り扱い方はどうするべきか
-
- 外側を下において、立ち去るときに拭き掃除。
- 食堂の入り口にナプキンを置いてマスク置きとして使ってもらっている。机を拭かなくてよくなる。
-
- オフィスのフリーアドレス化
-
- 日本産業衛生学会のガイドには「フリーアドレスは感染者が出た時に追跡できないから推奨しない」とある。
- 各フロアの入退室をIC管理していた場合には、フリーアドレスを実施しても良いと情報提供。
- 使用後に机や周囲を拭き取ってくれればフリーアドレスでも良いのだが・・・。
- その他
-
- 感染症対策に関する資料をまとめたリーフレットの配布
- 発熱者の対応マニュアル作成
- 帰国困難者の電話面談
- HPでの「感染症流行時の安全衛生活動のヒント」の情報発信
- 会社の新型コロナ対策委員会の定期会合(遠隔参加)
- 株主総会における感染対策
- 緊急事態宣言解除後も原則5割出社に留める会社方針があり、在宅勤務出来ない職種の人については優先して出勤可能となる方針にするよう交渉
- 感染事例への対応
-
- 感染者・疑い症例の実務対応
-
- 濃厚接触が疑われる社員のリスト作成
- 感染疑い者が多発した部署において全員自宅待機の指示
- 同じ建物内の別会社(エレベーター、社員食堂等共用)で複数感染報告があった事業所で原則として在宅勤務となった
- 保健所
-
- 感染者がでて全員自宅待機させたが、保健所から何も指示や指導がなかった。
-
- 4月ごろまでは保健所はキャパオーバーで濃厚接触者の範囲指定は対応できていなかった。
- 現在は繁忙期も過ぎて対応がよくなっている印象。
- 保健所は発症者の居住地の住所で管轄が決まる。これは結核と同じ。
-
- 職場のあるエリアの保健所と連携できないと、職場としては勤務者の感染管理がしにくい。
- 濃厚接触者の居住管轄・勤務先管轄の両方の保健所に問い合わせたが、両方とも指示はなかった。こちらの判断で2週間の自宅待機を指示した。
- 感染者が発生した病院では、学生の実習ができない状況になっている。
- 出口戦略
-
- 緊急事態宣言解除後の段階的定常化の基準書作成
- 緊急事態宣言解除に伴う出社基準等の策定
- 事業継続計画(BCP)と感染予防の両方を踏まえたうえで、何をするべきか考える必要がある。
-
- 7月からは出社する社員が50%を超えない水準になるよう、在宅勤務を実施する予定。
- 2m離してオフィスを使用することを条件としたら、出社する社員が50-60%になった。
- 本社・本部では出社する社員を2割にしている。
- 2、3班に分けて出社させている。
- 社内システムにアクセスしなくてはいけない人が残業して、過重労働になっていた。
- これだけ在宅勤務が増えると、技能伝承がされずに、10年後に危機が来るかもしれない。
- 産業保健活動
-
- 復職支援
-
- 復職のスケジュールを柔軟に運用している。在宅でできる課題をまずやってもらうなど。
- リワークも止まっている。職場復帰可否判断が難しい。
- リワークを開始した。
- 在宅勤務での職場復帰
-
- 上司が働きぶりを確認できないので、認めにくい。
-
- 技術で補えるのであればいいが・・・。
- 上司が密に連絡を取る、面倒を見ることを条件に復職(在宅勤務復職)を認めた。
- 職種とサポート体制など総合的な判断は必要だが、在宅勤務復職を認めてもいいのではないか。
- 在宅勤務が終了になっても、通常通り就業出来ると本人に自信があることが最低条件。
- 在宅勤務は通常より負荷が高いと念押しして復職させている。
- 日本産業保健法学会:在宅勤務と復職
- https://jaohl.jp/qa/q2在宅勤務と復職/
- 産業医活動のICT化
-
- 長時間労働者の面談はWEBだと遠方から来てもらわなくて済むので便利。血圧を測定できないというデメリットはある。
- 緊急事態宣言延長をうけて在宅勤務が継続することに悲観し、自殺した症例のことを聞いた。
3.今後の対策
「Q2. 今後1か月の間に、職域で取り組むことが特に重要になってくるだろう事項についてお考えをお聞かせください。」という問いに対してあった回答をもとに討議を行った。- 感染予防策
-
- 在宅勤務ができない社員への感染対策
- 持病のある社員への対応/重症化ハイリスク者の定義を明確化すべきか
-
- 本人や家族に持病があり、ハイリスク者であるため、在宅にさせて欲しいという依頼があった。
-
- 産業医だけでは決められない。人事や上司と一緒に決める。
- 妊娠中の女性労働者等への配慮について厚労省がお願いを出している。
-
- https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11067.html
- ハイリスク者の定義
-
- 高齢の現場作業者が多いので、感染防御にはきちんと取り組みたい。
- リスクになる年齢は、後期高齢者としていいのではないか。なお、ガイドの最新版では年齢に関する記載はしていない。
- 糖尿病管理不良の方を出社停止にしている事業所がある
- ECMO装着に至った従業員の健診結果は不良であった。
- ハイリスク者を例示し、働き方を変えたい社員は上司に相談の上、産業医に相談するよう周知
- 通勤時の混雑対策
- 外国人寮の感染対策(個室化)
-
- 特に外国人実習生の場合に、劣悪な居住環境に置かれている場合がある。
- そうした住居実態の調査し、感染拡大の温床とならないようにする必要がある。
- 熱中症対策と感染予防策との折衷案
-
- 屋外作業に従事している労働者にマスクを着用させるべきかどうか。
- 屋外工場では2m以上離れるよう指示。実際は3m以上離れている。
- 屋内工場では空調の設定温度を2度下げている。
- 経営が厳しいところではなかなか導入は難しいか。
- 休憩を多めにして、水分補給を多くしてもらう。
- 感染防止と熱中症対策のどちらを優先する状況かによって、フェイスガード、マスクなどの優先順位は変わってくるだろう。
- 夏季休暇中の移動について従業員への報告依頼、体調確認
- 感染症対策への疲れ・緩みに対する定期的な感染症対策のリマインド
- 感染発生時の対応
-
- 濃厚接触者・疑似症例・確定症例発生時の対応の簡素化
- 濃厚接触の濃厚接触の濃厚接触者への対応
- 家族の職場、子供の学校などで感染者が出た時の対応
- 『新しい働き方』
-
- 出張、時差出勤、テレワーク(在宅勤務)の在り方
-
- 在宅勤務者と管理職におけるコミュニケーションの在り方
- 業務管理と体調管理の両方が大切。
- 在宅勤務者に連絡しすぎてしまう管理職がいる。
- 出社と在宅勤務とのバランス
- (例:在宅勤務に過剰適応した社員が従来の働き方に不適応を起こす場合)
- 業種別ガイドラインでカバーされていない業種や漏れている項目への対応
- 在宅勤務下での健康管理の在り方・メンタルヘルス対策
- 在宅勤務でコミュニケーション課題が明らかになった職場の特定及び介入
- 学会や産推研(産業医学推進研究会)など、みなが集う場所がこれからどうなっていくのか。
-
- 社会医学系専門医資格に必要な単位が足りなくなってしまう。
- 更新期間の延長の特別な事由に該当するということになった。
-
- http://shakai-senmon-i.umin.jp/news/
- 日本医師会の産業医期限も半年猶予に。
-
- https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/sangyoi_news/application/pdf/b514525fcf6d8814203689483109343d.pdf
4.ベストプラクティスの共有
「Q3. 新型コロナウイルス感染症への対応として御社が取り組んでいることで、共有したい取り組みがあれば教えてください(ベストプラクティスの共有)。」という問いに対してあった回答をもとに討議を行った。- 感染予防の徹底
-
- 部署ごとの発熱者の把握(リストの作成)
- 出勤者を減らす取り組み
-
- 2交替制勤務
- 時差出勤
-
- 時差出勤(7時半と11時出社)を導入したことにより、かえって負担が大きくなってしまっている社員もいる
- 自宅待機(テレワーク)
- コミュニケーション
-
- 業種の特性も踏まえて感染対策をチェックし、先方担当者にフィードバック
- ICTを用いた過重労働面談
- ICTを用いた産業医による面接指導
- 外部資源を利用したアンケート調査
- HP上で各部署で使える教育ツールの配布
- 上司ー部下の関係
-
- 部下を「監視」するツールが売れているらしい。スカイプをつなぎっぱなしにさせる会社もあるという。
- きちんとフォローしようとする上司の負担が大きくなりがち。
- 上司のパワハラにより不適応だったが、リモートになり具合が良くなった人がいる。
- オンライン朝会をやっている社も。
- アンケートを作成し、ストレスチェックを実施している会社もある
- その他
-
- そもそもアウトプットで評価することが出来ない、今までの労務管理問題が顕在化したとも言えます。
- 通常業務に戻す際には、徐々に戻すよう伝えている
-
- 業務量、出社の日数、時間等
- コロナで止まっていた案件の「揺り戻し」を懸念。
5.困っていること・現状の課題
「Q4. 現在、産業医として新型コロナウイルスに対応していく上で、困っていることがあればお聞かせください。」という質問に対しての回答をもとに意見交換を行った。- 海外渡航について
-
- インドネシアやタイなど、渡航に際してPCR検査の陰性証明を提出させる国がある。
- 海外渡航の際の検査は、日本渡航医学会に参加しているトラベルクリニックのみで行えることになる予定。
- PCRは社員の健康管理として行うわけではなく、海外渡航の手続きの一つとして実施するものであることを忘れてはいけない。産業医が関与しなくてよいように制度設計がなされるべき。
- 基本的には産業医が関与しなくていいよう、渡航医学会では制度設計の働きかけを行っている。(渡航時の予防接種について産業医の意見を聴く程度の関与はあるかもしれない。)
- 社内スクリーニングとしての抗体検査について
-
- 抗体検査の精度が分かっていない現状で、検査導入はいかがなものか。
- 導入するとしても、陽性が出た後にどのような対応がするか詳細を検討するべき。
- 6月以降、在宅勤務を解除する企業と継続する企業が混在しており、時折、訪問先で難民になってしまう(貸会議室を探して後者にはオンライン対応中)
- 消毒用エタノールが入手困難
-
- 酒造メーカー高濃度アルコールや工業用アルコールの成分やSDSを確認した上で、従業員やお客様の手指消毒剤として使用を促してもよいものか。
- 産業医業務はテレワークを前提としていなかったため、現時点では、効率悪化の問題やセキュリティの不安がある。
- 在宅勤務者の飲酒の心配をしているが、全体への注意喚起程度しか手を打てていない。
- 嘘情報に会社全体が踊らされ、それを阻止する機構がないことについて
6.参考になる情報
「Q5. 新型コロナウイルス感染症に関して検討会参加者に紹介したい情報(ウェブサイト、論文など)があれば教えてください。」という質問に対しての回答をもとに意見交換を行った。- Lancetのソーシャルディスタンスやマスクの効果に関するメタ解析
-
- https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31183-1/fulltext
- 日本疫学会のウェブサイト
-
- https://jeaweb.jp/covid/
- 「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」更新版
-
- https://www.sanei.or.jp/?mode=view&cid=416
- 「感染症流行時の安全衛生活動のヒント」
-
- https://sites.google.com/ohs.adm.u-tokyo.ac.jp/safe-lab-office-tips
- 全国の労働者を対象とするオンライン調査の結果報告
-
- 企業内対策の数が多いほど従業員の精神的な健康度や仕事のパフォーマンスは高いことが明らかになった。
- https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/1348-9585.12134