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業績PUBLICATION

  • Obesity, 28 (2), 437-444, 2020. (Feb)
Body mass index and medically certified long-term sickness absence among Japanese employees.
Endo M, Inoue Y, Kuwahara K, Nishiura C, Hori A, Ogasawara T, Yamaguchi M, Nakagawa T, Honda T, Yamamoto S, Okazaki H, Imai T, Nishihara A, Miyamoto T, Sasaki N, Uehara A, Yamamoto M, Murakami T, Shimizu M, Eguchi M, Kochi T, Nagahama S, Tomita K, Kunugita N, Tanigawa T, Konishi M, Nanri A, Kabe I, Mizoue T, Dohi S, for the Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study Group.

肥満とやせの両方が男性勤労者の長期病休リスクに
関連していることを明らかにしました
―77760人の職域大規模コホート研究(J-ECOHスタディ)―

 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(略称:NCGM)は、関東・東海地方に本社がある企業10数社の従業員約10万人を対象にした多施設共同コホート研究を行っています。今般、このコホートを用いて、2011年度に定期健康診断を受診した77760人を最大5年間追跡したデータを分析し、肥満とやせが男性勤労者の長期病休(連続30日以上の病休)のリスク増加と関連していることを明らかにしました。女性についてははっきりとした結果は得られませんでした。

 

【背景】

 病気を理由とした休職は、企業にとって人的資源の損失、生産性低下、社会保障費の増大を意味します。ビジネスを持続的に発展させていくためには、社員の休職の原因となるリスク要因を把握することは重要な課題です。
 肥満と病休の関連については、これまでに数多く報告があります。しかしながら、やせ(BMI 18.5 kg/m2未満)と病休との関連を調べた研究は少なく、結果も一致していません。また、病休の原因となった疾患ごとに調べた研究はほとんどありません。日本人は欧米諸国に比べて肥満者の割合が少ない一方でやせの割合が多く、肥満だけでなくやせにも着目して病休との関連を研究することは、日本の労働者の健康づくりを推進するためのエビデンス(科学的根拠)づくりとして欠かせません。
 以上をふまえて、NCGM疫学・予防研究部は、職域多施設研究(J-ECOHスタディ)のデータを用いて、肥満・やせと長期病休(連続30日以上の病休)との関連を検討しました。

 

【方法】

  1. 対象:J-ECOHスタディ参加施設の労働者のうち、2011年度に職域定期健康診断を受診した20~59歳 77760名
  2. 追跡期間:最大5年間(2012年4月~2017年3月)
  3. 肥満・やせの指標:BMIを算出し、以下の4群に分類しました。なお、BMIは体重[kg]を身長の2乗[m2]で割った値で肥満度の指標です。
    (1) やせ(BMI 18.5 kg/m2未満)
    (2) 正常(BMI 18.5-24.9 kg/m2
    (3) 過体重(BMI 25.0-29.9 kg/m2
    (4) 肥満(BMI 30.0 kg/m2以上)
  4. 長期病休
    コホート内で病休の登録制度を構築し、参加企業の産業医を通じて報告された長期病休(連続30日以上の病休)のケースをアウトカムとして使用しました。長期病休の原因となった疾患は、国際疾病分類(ICD-10)に基づいて分類しました。
  5. 統計解析:コックス比例ハザードモデルを用いて、BMIによって定義した体格と長期病休のリスクの関連を検討しました。2011年時点の企業、性、年齢、喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症を解析上考慮し、これらの要因による影響をできるだけ取り除きました。
  6. 参加者数が多かった男性について、長期病休の原因となった疾患別(身体疾患・精神疾患・事故/外傷)に解析しました。

 

【結果】

図1
  1. 男性においてはやせ、肥満の両方で長期病休のリスクの上昇がみられました(U字型の関連)。具体的には標準体重の群と比較して、長期病休のリスクはやせていると1.56倍、肥満であると1.81倍でした。
  2. 女性においては過体重のみで長期病休のリスクの上昇がみられました(1.54倍)。
図2
  1. 男性で行った原因疾患別の解析では、精神疾患、身体疾患ともにU字型の関連、すなわちやせと肥満の両方でのこれらの疾患による長期病休のリスク上昇が認められました。

図1.体格と長期病休の関連を検討したコックス比例ハザードモデルの結果(男女別)

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図2.体格と長期病休の関連を原因疾患別に検討したコックス比例ハザードモデルの結果(男性のみ)

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【解説】

 本研究より、男性においては肥満とやせの両方が長期病休のリスク上昇と関連していることが明らかになりました。長期病休の原因疾患別の検討では、身体疾患、精神疾患ともに、肥満とやせの両方で長期病休のリスクが上昇していました。勤労者や職場にとって適正体重の維持が重要であることを改めて示唆する結果となりました。
 女性については過体重でのみリスク上昇の傾向が認められ、肥満ややせとの関連はみられませんでした。女性の対象者が少なかったことも関連が見られなかった理由かもしれませんので、より確たる結論を導くためにさらなる研究が必要です。

 

【掲載誌】

Obesity
Endo, Motoki, Yosuke Inoue, Keisuke Kuwahara, Chihiro Nishiura, Ai Hori, Takayuki Ogasawara, Miwa Yamaguchi, et al. “BMI and Medically Certified Long-Term Sickness Absence Among Japanese Employees.” Obesity 28, no. 2 (2020): 437–44.
URL: https://doi.org/10.1002/oby.22703.