研究概要
国内における研究
職域多施設研究(J-ECOHスタディ)
関東・東海に本社を置く10数社(約10万名)が参加した前向き研究です。働く世代における生活習慣病や作業関連疾患の実態や関連要因を明らかにし、その予防や管理に資することを目的としています。定期健康診断のほか、心血管疾患発症、長期病休、死亡といった事業場の健康管理資料を系統的に収集し、データベース化しています。
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研究班員リスト
研究推進のため産業医との検討会を定期開催しています。
J-ECOH-運動疫学研究
J-ECOHサブスタディとして、健康診断時の問診で運動について詳しいデータが得られた施設を対象に、運動習慣と肥満、糖尿病、抑うつなどとの関連を分析しています。
徒歩や自転車といったアクティブな方法や公共交通機関を使って通勤している労働者は体重増加が抑制されることを明らかにしました。エコ通勤は環境に優しいことに加え、働く人の生活習慣病予防にも好ましい効果があるといえます。
J-ECOH-栄養疫学研究(FUNスタディ)
J-ECOHサブスタディとして、ある企業の労働者約2000名に食生活を含む生活習慣調査と血清保管にご協力いただき、糖代謝や抑うつなどに関わる食要因をはじめとする生活習慣との関連を分析しています。本研究は、後述する地方公務員研究(KOMスタディ)を発展させた縦断研究です。2012~2013年にベースライン調査を実施し、3年ごとに追跡調査を行っています。
日立健康研究(HHS-I)- 内臓脂肪、糖尿病に関わる血中栄養素
脂肪は単にエネルギーを貯蔵する場所ではなく、炎症など病気のメカニズムに関わる生理活性物質を産生する重要な臓器として認識されています。 2008年度の人間ドック受診者を対象に、腹部CTによって内臓脂肪蓄積を正確に測定したデータを用い、内臓脂肪と心血管代謝疾患危険要因と大腸がんとの関連を明らかにしました。
血清の提供を受けた受診者をコホートとして、コホート内症例対照研究の手法により、糖尿病発症に関する血中の栄養成分(フェリチン、ビタミンD、脂肪酸、アミノ酸)との関連を明らかにしました。
日立健康研究(HHS-II)- 認知機能
認知症の予防要因を明らかにするため、2017年度から(一部2016年度から)、60歳以上の人間ドック受診者を対象に認知機能検査、生活習慣や社会参加状況などに関する質問紙調査、残血清保管を行う疫学調査を開始しました。2020年3月までに約1400名に全項目タイプの調査にご参加いただきました。追跡調査により、加齢に伴う認知機能の変化を調べる計画です。
地方公務員研究(KOMスタディ)- 職域栄養疫学研究
福岡県地方公務員約550名を対象に行った抑うつを主なアウトカムとした栄養疫学研究です。葉酸や健康的な食事パターンがメンタルヘルスに関連していることを日本で初めて報告しました。尿中8-OHdG(酸化的遺伝子損傷マーカー)と喫煙、肥満度、血中栄養素(脂肪酸、フェリチン、コレステロール)、コーヒー飲用、運動との関連を報告しました。
JPHCスタディ - 糖尿病及び食事の質に関する研究(分担)
JPHCスタディは日本を代表する保健所ベースの住民コホート研究です(主研究機関は国立がん研究センター)。当研究部は主に糖尿病や栄養に関する解析を担当しています。研究成果の概要は以下の通りです。詳細は国立がん研究センターのホームページを参照ください
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- 糖尿病の食要因
糖尿病のリスク低下と関連する栄養成分としてビタミンD・カルシウム、イソフラボン(閉経後女性)を、リスク上昇に関連する食要因として米(白米:女のみ)、グリセミックインデックス(食後血糖を上昇させる度合い)、赤肉(男のみ)を報告しました。 - 2)
- 食事の質と死亡
食事バランスガイドを遵守した食事、健康的な食事パターン、食事抗酸化能が高い食事は死亡のリスクが低いことを報告しました。
がん予防研究 - 科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究(分担)
生活習慣とがんリスクに関する日本における科学的証拠を評価し、日本人に適したがん予防法を提言する研究班に参加しています。当研究部は大腸がんを担当しています。詳細は主研究機関である国立がん研究センターのホームページを参照ください
新型コロナウイルス感染症 - 医療従事者等における健康影響
国立国際医療研究センターはパンデミック初期の2020年7月に職員を対象にした血清疫学調査を開始し、これまで計7回の調査を継続的に行い、新型コロナウイルスの感染の広がりや感染防御に関する免疫の状態を調べてきました。
本研究では、これまでに得られたデータを分析し、ワクチンの接種回数(2~5回)、接種したワクチンの種類(従来型/オミクロン対応型)、および過去の感染の有無に分けて、感染防御に関する免疫指標であるスパイクタンパク質に対する血中抗体価を比較しました。
結果概要
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- 3回接種1か月後の抗体価とくらべ、12か月後の抗体価は5分の1以下に低下していた。
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- 3回接種12か月後で感染歴がある方の抗体価は3回接種1か月後の方と同等であった。
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- 4回接種1か月後の抗体価は、最終接種ワクチンが従来型かオミクロン対応型かで差はなかった。
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- 3回、4回、5回接種の1か月後の抗体価にも差はなかった。
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- 4回接種1か月後で感染歴がある方の抗体価が最も高く、5回接種1か月後の方の2倍以上であった。
海外における研究
スリランカにおける学校保健プロジェクト ~ 子どもたちが親や地域を変える ~
小林博北大名誉教授(札幌がんセミナー)らがスリランカ南部の学校で行った生活習慣病予防事業を発展させ、スリランカ西部州の教育区において介入研究に取り組んできました。このプロジェクトでは、子どもが持つ環境を変える潜在的な力に着目し、子どもたちのヘルスプロモーション活動を支援することで、本人だけでなく、学校や家族、さらに地域社会の健康度を高めることを目指しています。
本研究は国際学校保健研究班の枠組みで行っています。同研究班が母体となり「国際学校保健コンソーシアム」が設立され、学校保健研究及びその普及に関する社会活動を国際的に展開しています。
ベトナムにおける心血管疾患等の予防に関するコホート研究
ベトナムにおける心血管疾患等の実態及び社会経済要因や生活習慣との関連を明らかにするため、ニャチャンパスツール研究所と共同で地域住民を対象にしたコホート研究を開始しました。現在、ベースラインのデータ収集をおこなっています。