第100回検討会概要《職域における新型コロナウイルス感染症対策の課題と現状 vol.1》
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職域多施設研究(J-ECOH)は、関東・東海に本社を置く企業(約10万名)が参加する大規模コホート研究です(研究代表者:土肥誠太郎先生、事務局:国立国際医療研究センター疫学・予防研究部)。 働く世代における生活習慣病や作業関連疾患を予防することや、職域健康診断の有効性や効率を高めることを主な目的としています。
毎月開催している検討会では、原著論文の輪読や研究動向の発表、情報交換などを行っています。2020年4月からは、新型コロナウイルス感染症に関する現状と課題の共有をめざした討議をオンラインミーティングとして行っています。
黒田玲子先生(東京大学)とJ-ECOH事務局で新型コロナウイルス感染症に関するアンケートを作成し、検討会参加者に対して事前に回答を依頼しました。- Q1. 新型コロナウイルス感染症の拡大初期から現在(2020年4月)に至るまでの期間で、産業医として携わった対策についてお聞かせください。
- Q2.新型コロナウイルス感染症への対応としてこれから職域で取り組むことが重要であろう事項についてお考えをお聞かせください。
- Q3. 自由回答
1.これまでの取り組み
「新型コロナウイルス感染症の拡大初期から現在(2020年4月)に至るまでの期間で、産業医として携わった対策についてお聞かせください。」という質問に対して得た回答を「情報提供」「経営・人事」「感染予防・事例発生時の対応」「感染者の対応」「その他の産業保健活動」の5つに分類し、それぞれのテーマについてディスカッションを行った。- 情報提供
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- 取り組んでいるプロジェクトの紹介(今井先生)
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- 厚労省クラスター対策班に集まる産業保健の課題を中心に検討、中小企業向けに情報発信をしている。配信に向けての協力体制を作った。
- コールセンター、物流事業者、葬儀屋などに課題があると認識。
- 中小企業の対策が十分でない。
- Zoomなどを使用した産業医によるウェビナーも企画中。
- 在宅勤務ができない工場での対策に関する情報がまだない。製造業は感染対策に敏感になっている印象。
- 訪問中止を依頼する企業に対しては、Zoom等による遠隔対応(衛生委員会・面談等)も一つの方法。
- 情報の正確性が担保された情報ではないと会社では受け取ってもらえないことも多い。デマも多い中、情報のバックグラウンドは重要。
- ここぞとばかりに出てきた「専門家」も多い。
- 経営・人事
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- 対策本部に産業医が入っており、そこで発言すると、各部署に考えがすぐ流れる。下まで統一した対策が伝わっている。
- 経営陣から健康対策を発信している。
- 親会社と子会社のすり合わせが難しい。自分(産業医)がすり合わせをやることでうまく繋げた。
- 営業を止めるなどの影響が出ている。今後営業停止の範囲は広がる見込み。
- 基本的に在宅勤務ができる人は、100%在宅にさせている。
- 発注者の意向で事業が止められないケースがある。日雇い労働者もいるため高リスクと認識している。
- 本社から新入社員研修を行う指示があり、安全確保の対応に追われた(人事への指示、緊急の研修)。今後、全国で緊急事態宣言になるので、状況は流動的。
- 感染予防・事例発生時の対応
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- 過剰な対応をしている企業がいる印象をうける。社外へのアピールを間違えると、のちのち自分の首を締める。「ちょうどいい」対応がよい。
- 同じ企業でもITツール(Teamsなど)の活用状況が異なることがある
- 嘱託先が今月訪問延期、今後オンライン面談化の話をしている。社外アクセスの情報セキュリティの安全性も話題になっている
- オンラインの巡視は通達で禁止されているはず。
- 社員は3割以下の出勤にしているのに、産業医はスケジュール通りの訪問を依頼されている。人の少ない事業所の巡視はなかなか貴重な体験。参加者は少なくしている。
- 感染者が発生していないので、職場巡視は継続。マスクを着用する以外は通常通り。
- グループ会社の産業医複数名が、店舗の巡視はしたくないと申し入れしてきた。
- 距離はとるように工夫して巡視を行っている。
- マスクを着用して1人ないし少人数で巡視。通常一緒に行くメンバーは在宅でいない。
- 小売りと窓口業務はリスクが高い。不特定多数との接触を減らす対応。
- 感染者の対応
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- 陽性者が出始めている。
- その他の産業保健活動
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- 特殊健診を延期する場合には、その事情と会社の判断を記録に残すよう、行政からアドバイスを受けた。
- 健診は6月なので実施の方向で業者と調整中。距離感は気を付ける程度。現場なので防じんマスクは常につけている。
- 健康診断は継続して行っている。。
- 過重労働面談がICTを使って行うことになった。
- 衛生委員会をTeamsで開催した。
- 会議は全部、WebexかTeams。
2. これからの課題
「新型コロナウイルス感染症への対応としてこれから職域で取り組むことが重要であろう事項についてお考えをお聞かせください。」という質問に対しての回答を「情報提供」「健康影響」「ワークライフバランス・家族のケア」「今後の感染動向と事業継続」「ポストコロナ時代の産業保健」というカテゴリーに分けてディスカッションを行った。- 情報提供
- 在宅勤務が増えると酒量が増える可能性があるので、そこへの対応
- 社員食堂利用者に対するマスクの保管場所の確保の提言などをする
- 宮本先生
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- 産業衛生学会と渡航医学会の共同発出文書の情報は、かなり精査した情報。
- BCPの好事例も掲載。まもなくリリース予定。
- アプローチしすぎると不安をあおる可能性もある
- 健康影響
- 在宅勤務だと水分を摂らなくなったと遠隔での安全衛生委員会で発言していた社員がいた。在宅勤務が長期化することの健康リスクを考えたい。
- 妊婦のケアも重要。
- ワークライフバランス(家族のケア)
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- 子供の休校・休園にともなう生活リズムの変化、子育て・介護等の負担増加。
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- 学校閉鎖による休業が必要な場合は、通常の有給休暇以外の給与100%を保障する休暇を設定した。
- 感染した家族のケア。
- PCRせずに新型コロナだとして自宅待機をさせる場合に、家族など濃厚接触者への対応をどのようにするか。
- 感染が確定しない状態で休ませると給与はどうなるかの議論をしないといけない。
- 会社指示の自宅待機の場合は100%払うように指導している。
- 性善説に基づいて、濃厚接触で感染が明らかになっていない場合でも有給になる。
- 今後の感染動向と事業継続
- 大企業からの納期を延期するなどしてやらないと、中小企業は事業を継続せざるを得ない。
- 派遣切りや内定取り消しなど、シビアな話が出てきている。
- 在宅勤務ができない窓口勤務者に良い感染防止対策。
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- コンビニ、スーパー等で使用されているビニールカーテン。
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- ビニールカーテンは本当に効果があるのか?
- 働く側の心理的ケアにはなるのでは?
- ドクター中松のフェイスシールド
- 現金支払いの客に対する不安の声が出ている。
- 感染動向の見通し
- 季節性のかぜに変化するので、半永久的では
- 北大西浦先生の数理モデルを参考にしている
- 2022年ごろまで終息しないというハーバードの研究が出た。
- スペイン風邪の際には3年継続した。
- 集団免疫獲得するまでは続くのではないか。
- 集団免疫が獲得できるのかという疑問も出てきている。
- 死亡率がインフルエンザより膨大。
- ポストコロナ時代の産業保健
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- これを機会に、働き方、健康管理を変えたほうがいい。
- 産業医の働き方改革。
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- 訪問しないオンラインがデフォルトになる?
- 料金設定。
- 今回の一連の新型コロナへの対応として「実際やったこと」の集積は将来的に大きな財産になる。色々な企業の活動事例を集めてみてはどうか。
- プライバシーへの配慮。
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- WEB会議では背景が見えないようにバーチャル背景にしている。スキャンスナップのアプリ
- ノンバーバルコミュニケーション
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- 職場での雑談とかがなく、メンタル面での心配がある(孤立感)。
- 朝の会をウェブでやる。
- お昼を遠隔で一緒に食べるなどのノンバーバルコミュニケーションをやってる企業もある
- 遠隔飲み会
- 3年間のオンライン留学では卒後につながる人的ネットワークがあまりできなかった。
- オンラインが前提の社会になると、ネットワークの在り方、感じ方も変わるのかもしれない。
その他のトピック
- 大学生
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- 新入生はコミュニケーションも取れず不安増大で大変そう
- 入学後の早期に医療現場を体験する実習ができない。
- ポリクリ(臨床実習)はどうするのか?
- ネットワークの問題
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- 全学部のオンライン講義に回線が耐えきれないことに大学が難渋している
- Web会議で回線が持たず、会議に成り立たない時間帯が長くある
- 今年の研修
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- 高卒の新入社員研修は、オンラインでできないため、会場で距離をとって、最初にコロナの講義を産業医が実施。現場研修も頑張ってはじめるところ。
- 社長が顔が見えないとダメだと言って、新入社員を一つの会議室に集めてやっている企業がある。