HOME     J-ECOH検討会     第117回検討会概要《健康危機のデータ管理/慢性腎臓病》

J-ECOH検討会J-ECOH BLOG

第117回検討会概要《健康危機のデータ管理/慢性腎臓病》

前の記事 | 次の記事

開催概要

日 時:2022年7月15日(金) 19:00-20:30
場 所:オンライン討議

特別講演 :健康危機のデータ管理
講  師:久保 達彦 教授(広島大学)

地震や台風などの自然災害だけでなく、福島第一原子力発電所事故や新型コロナウイルスなど、「現地の対応能力を超え、外部からの支援を要請する必要がある状況や出来事のこと」を広く災害という。これまで、外部支援者が現地で収集した保健医療データが支援者間で十分な情報共有されないことが災害支援の現場では課題となっていた。例えば、東日本大震災後の支援においても標準カルテや標準診療日報が存在しなかったため、継続診療や医療調整に支障があった。  本特別講演では、2013年フィリピン台風発生後の災害支援の際に、国際医療チーム調整会議に統一フォーム(SPEED様式)を採用するよう提案し、支援者間の情報調整を効率化した経験を紹介いただいたうえで、その際の経験から生まれた「災害時診療概況報告システムJ-SPEED」および「災害診療記録(災害医療チームの標準カルテ)」を活用したデータ収集・利活用の方法について紹介頂いた。このJ-SPEED方式はWHOによる国際標準(The WHO EMT Minimum Data Set[MDS])として採用され、2022年のロシアによるウクライナ軍事侵攻に伴う難民支援の際にも、MDSに基づく診療記録及び診療状況報告システムがウクライナ、モルドバ、ポーランドで構築された。  講演ではその他にも、J-SPEED方式に則って広島県で実施された新型コロナウイルス感染症に関するデータ収集・利活用の事例や、マスギャザリングイベントや産業保健の現場での同方式の利活用の可能性についても紹介いただいた。
 https://www.j-speed.org/

ミニレクチャー :慢性腎臓病の疫学

本レクチャーでは①腎臓の働き、②慢性腎臓病の疫学、③慢性腎臓病の原因、および④慢性腎臓病の予防要因について概説した。  慢性腎臓病の日本国内の推定患者数は2000万人であり、これは日本人6人に1人が慢性腎臓病に該当することになる。慢性腎臓病は、永久・永続的に腎臓が損傷した状態であり、経時的に悪化する不可逆性の疾患である。そのため、発症予防や進行予防に焦点が当てられている。糖尿病と高血圧は慢性腎臓病の2大原因であり、これらの疾患の予防・疾病管理は慢性腎臓病の予防には欠かせない。また、肥満・喫煙・運動不足・過剰飲酒などの生活習慣を改善することも慢性腎臓病の予防・進行遅延にとって重要である。
(発表者:事務局・山本尚平)

論文紹介 :血圧と慢性腎臓病に関する性差および降圧剤有無による層別化解析

本論文は、30~74歳の日本人労働者とその扶養家族の2008年~2017年に収集された健康診断データを用い、血圧と慢性腎臓病(CKD)発症リスクの関連が、性別や降圧剤使用により異なるか検討したものである。  解析の結果、性別にかかわらず、血圧が高いほどCKDのハザードは有意に高くなることが明らかになった。この関連は、降圧剤の使用有無に関わらず同様に観察された。男性の治療群においてのみ、未治療群の正常血圧の対象者と比較して、血圧が正常または正常高値の対象者におけるCKDのハザード比は有意に高かった。
(発表者:坂本宣明)
書誌情報:Satoh M, Hirose T, Nakayama S, Murakami T, Takabatake K, Asayama K, Imai Y, Ohkubo T, Mori T, Metoki H. Blood Pressure and Chronic Kidney Disease Stratified by Gender and the Use of Antihypertensive Drugs. J Am Heart Assoc. 2020;9:e015592.