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第133回検討会概要《双極症への対処と治療》

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開催概要

日 時:2024年9月7日(土)14:00-17:00
場 所:TKP神田ビジネスセンター

特別講演:双極症への対処と治療

演 者:加藤忠史先生(順天堂大学)
抄 録:双極症(双極性障害、躁うつ病)は、(軽)躁状態とうつ状態を繰り返す疾患である。初発のうつ状態では診断できず、正しい診断に4~10年かかると報告されている。このように双極症の診断・治療が遅れる要因としては、うつ状態が広く知られるようになった一方、躁状態については十分知られておらず、身近に躁状態になった人がいても、病気と気づかないという問題もある。また、初発の躁状態では、治療につなげること自体が困難である。躁状態における問題行動や、うつ状態の繰り返しにより、期待されるレベルの仕事に就けていない人も少なくなく、うつ状態によるabsenteeism、presenteeismによる社会的損失も大きい。また、家族に与える影響も甚大で、多くの家族が患者の問題行動に苦しんでいる。
 双極症の治療においては、薬物療法と心理社会的治療が車の両輪となる。薬物療法では、再発予防に有効な気分安定薬としてリチウム、ラモトリギンなどがあるが、副作用などのために服薬を中断し、再発を繰り返す者も多い。躁エピソードに対しては多くの治療の選択肢がある。抑うつ状態の治療法の選択肢は少ないものの、クエチアピン、リチウム、オランザピン、ラモトリギン、ルラシドンが用いられる。また、気分安定薬と非定型抗精神病薬の併用も行われる。双極症の治療の中心は維持療法であり、維持療法継続のためには、疾患の受容を促す心理教育が何よりも重要である。

総合討論:職場における躁うつ事例の紹介

ファシリテーター:深澤健二先生(株式会社アドバンテッジリスクマネジメント)
概 要:事務局・谷山から「J-ECOHスタディにおける双極症による長期病休の発生状況」について報告した。その後、深澤先生及び大津先生が担当事業所での双極症事例について紹介し、それを受けて参加者全員で討議した。双極症患者は躁状態の自覚が乏しく、その状態での出来事を他者に語りたくない心理が働くため、診断が遅れる。問診で躁エピソードについて丁寧に確認する必要がある。職場復帰に際して疾病管理のため主治医との連携が不可欠であるが、主治医・上司・産業医が一同に会した場の設定は困難である。スティグマの観点から診断書のみに基づく対応は問題があることが議論された。双極症の対応において、患者に対する陰性感情を抱きやすいことも課題であり、双極症の病理の理解や、治療と仕事のバランスを図る視点が大切であることが共有された。