第135回検討会概要《ジョブ型雇用における産業保健を考える》
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日 時:2025年1月16日(木)19:00-20:30
場 所:オンライン討議
話題提供:ジョブ型雇用における産業保健を考える
発表者:戸津崎 貴文 先生(PwC Japan 合同会社)
抄 録:2020年版 経営労働政策特別委員会報告(経団連)では、日本型雇用システムが転換期を迎えていると指摘した上で、今後「『メンバーシップ型社員』を中心に据えながら、『ジョブ型社員』が一層活躍できるような複線型の制度を構築・拡充していくことが必要」と提言されている。また、昨今大きく取り上げられている「就職氷河期世代」の就労や、男女間の賃金格差、育児・介護による離職等の問題は、メンバーシップ型雇用の矛盾によるものと指摘され、今後ジョブ型雇用が広く導入されることが予想される。 産業保健の視点からは、ジョブ型雇用の導入によって軽減が期待される負担やストレス要因がある一方で、配置転換や就業制限等の受け入れが厳しくなる可能性もある。また、メンバーシップ型雇用ではOJT(On-the-Job Training)が技能習得の中心となるが、ジョブ型雇用では個人の努力による技術習得・維持が求められる。その結果、技能水準を発揮するために必要な健康管理においても、従業員の自助努力がより一層求められると予想される。こうした変化に伴い、事業場における健康管理の観点が「長期的メンバーシップの確保」から「継続的な職務遂行」へと変わり、産業保健の方向転換の一つになるかもしれない。今後の「ジョブ型雇用社会」に向けて、我々産業保健スタッフは何をどのように準備する必要があり、どのように組織に貢献することができるのかを検討し、備えることが必要である
総合討論:ジョブ型雇用における産業保健にどう備え、何が必要か
ファシリテーター:西浦 千尋 先生(理化学研究所)
抄 録:総合討論では、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行に伴う企業の健康管理と産業医の役割の変化について議論した。ジョブ型雇用では、従業員は企業の会員ではなく取引相手として扱われ、個人のスキルや資格に基づいて雇用されるため、業務に必要な健康管理における個人の責任が強まる可能性がある。また、従業員教育は従業員自身で取り組むよう求められるかもしれず、企業は健康管理のリソースを提供するが利用は個人の選択となり、従業員のヘルスリテラシーがより重視される可能性がある。さらに、ジョブ型雇用では、報酬や責任の重い仕事を行っている従業員に多くの健康リソースが配分され、社内で健康格差が生じる可能性も指摘された。また、ジョブ型雇用は、若者の失業率上昇をもたらし、社会の安定性に影響を与えることから、メンバーシップ型とジョブ型の雇用の割合が日本社会でどうなるかは今後注目したい。会社への帰属意識に関しては、ジョブ型雇用によって従業員の帰属意識が低くなるのではないかとの懸念が示された。しかし、研究職のようにジョブ型雇用であっても帰属意識が高い例があることから、雇用形態だけで一概に帰属意識は変わらないとの見方も示された。最後に、雇用形態の変化に伴い、産業医には健康データ分析やコンサルティング能力など、より高度なスキルを会社から求められる可能性があり、雇用環境の変化に対応するため産業医は自らの専門性を高める必要があると結論づけた。